急性腹症トレーニング 1.病歴聴取

外科

はじめに

急性腹症は

  • 診断が難しい
  • 緊急性が高い

と2つの意味で難易度の高い。

では、どのようにすれば、早く正しい診断にたどり着けるのだろうか。

何事も病歴聴取は基本中の基本。

ということで、急性腹症トレーニングの一番目に病歴聴取を持ってきた。

病歴聴取をさらに順番で追っていこう。

1. 病歴聴取

1-1. バイタルサイン

いきなり病歴聴取じゃないと聞こえてきそうですが、、

外来であろうと、救急搬送であろうとまず第一に行うことは、バイタルサインの確認です。

冷汗や顔面蒼白、過呼吸などバイタルの異常をきたす症状があれば、一番にバイタルサイン測定が重要。

診察するとお腹まで汗がびっしゃり。血圧を測ると60mmHgなんてことも。。。
注意が必要!

1-2. 一般的な病歴

次には一般的な病歴です。

既往歴、内服歴、アレルギー歴は重要です。

特に、急性腹症では手術歴を忘れないようにしましょう

さらに高齢者の場合は、注意点があります。

  • 昔の手術は無かったことにしている
  • 薬のことがわからない

そのため

  • 腹部の手術痕の確認
  • お薬手帳の確認

上記はしっかりしておきましょう。

私は「盲腸したことありませんか?」も聞くようにしています。
「盲腸は30年前にしましたわ」って結構多いです。

薬は、NSAIDSやステロイドなどが急性腹症では重要となります。

過去のカルテ確認も大変ではありますが、ざっと見ておきましょう。

1-3. 腹痛の病歴

本質の腹痛の病歴を聞きましょう。

順番に聞くことを決めておくと聞き漏らしが無くなります。

私は下記の6つの順番で聞いていきます。

  1.  いつから?
  2.  どこが?
  3.  急に痛くなったのですか?ゆっくり痛くなりましたか?(Sudden or Acute or Gradually)
  4.  持続痛か間欠痛か?(Continuous or Intermittent)
  5.  嘔気嘔吐や下痢は?
  6.  発熱は?

このあたりは、腹痛のある患者全員に聞く病歴であろう。

一つずつみていこう。

1-3-1. いつから?

発症からどれくらい経って、どのくらいの症状なのか、これが重要である。

急激に発症し、強い痛みがあれば、急ぐ疾患であることが多い。

逆に3日前からの腹痛で、現在も歩ける状態であれば、じっくり診断すれば良いと考えられる。

急な腹部の激痛で救急搬送。これだけで危なく感じますよね。バイタル確認して落ち着いていたら検査と並行しながら病歴聴取くらいの緊急度ですよね。

注意が必要なのは、

  • 高齢者
  • 麻痺のある患者
  • 精神疾患のある患者
  • 痛み止めの服用している患者

これらの患者は、数日前からの症状で、瀕死の状態で救急搬送されることがある。

例)80歳、女性。3日前からの38度の発熱、腹痛。痛みをこらえながら働いていたと。家族が意思疎通が出来なくなり救急搬送。

来院時ショックバイタル。画像で大腸穿孔の診断。緊急手術をすると、腹腔内に大量の便塊。

助かりましたが、2か月のICU管理。本当になんとか生きてくれました。歩いて帰った姿は今でも覚えていますね。

1-3-2. どこが(痛む)?

痛い場所を確認しましょう。

腹部の内臓は小腸、大腸はある程度動きますが、基本的には解剖通りの場所に存在することが多いです。

しかし、注意が必要なのは、心窩部痛(上腹部痛)です。

内臓痛は、心窩部痛として表現されることが多く存在します。例えば、虫垂炎や尿管結石症などが有名だと思います。

胆嚢炎、胆嚢結石症、総胆管結石症の症状が右肩に放散痛として認めることも有名です。

病歴として痛い場所は重要ではありますが、【最も痛い場所】は腹部診察での理学所見で決定してください。

心窩部痛、微熱の患者を胃腸炎として、腹部診察を怠ると痛い目にあいますよ。虫垂炎など怖い病気が多いですから。

1-3-3. 急に痛くなったのですか?ゆっくり痛くなりましたか?(Sudden or Acute or Gradually)

Sudden onset か Acute onset か Gradually onset かの3つに分ける。

この病歴の聴取が、検査を急ぐのか、ゆっくり診断してよいのか、初期診断の最も重要な判断が迫られる部分です。

診察医の腕が問われる部分と言っても良いと思います。

ここを正確に病歴聴取することでその後の鑑別は大きく変わってきます。

  • Sudden onset:急に痛みが強くなった(何時何分に痛くなったとわかるもの)
  • Acute onset:数分から十数分かけて痛みが強くなった
  • Gradually onset:数十分から数時間のうちに痛みが強くなった

・うっ!痛い!って感じですか?
・痛みが徐々に出てきた感じですか?

って聞きますかね。まずは、Sudden onsetかどうかを確認します。

 「急に痛くなりましたか?」と聞けばSudden onset と Acute onset どちらも患者は「はい」とこたえてしまいます。

Sudden onset の疾患は緊急に処置を要する疾患が多い。

  • 消化管穿孔
  • 循環器疾患(急性心筋梗塞や大動脈解離、腹部大動脈瘤破裂など)
  • 出血性疾患(子宮外妊娠、卵巣出血など)
  • 梗塞性疾患(腸管膜動脈閉塞症、腎梗塞、絞扼性腸閉塞、卵巣腫瘍茎捻転など)

上記は一刻を争う疾患ばかり。

Sudden onset 恐ろしい。。

他には、急がないが結石性疾患(尿管結石や胆嚢結石嵌頓など)ですね。

1-3-4. 持続痛か間欠痛か?(Continuous or Intermittent)

これも大事な内容です。

間欠痛の聴取が難しいですね。「痛みが続いてますか?」と聞けば「はい」となってしまいますから。

「痛みが良くなる時間はありますか?」や、「今より痛みが和らぐときがありますか?」もしくは「今より痛みが強くなるときがありましたか?」が良い聞き方でしょうか。

私は「痛みに波がありますか?」と聞いてますね。だいたい通じてますね。

間欠痛は、消化管病変であることが大半です。まれに尿管結石の場合もありますが。

消化管病変でも、穿孔や絞扼などはまだ存在しないと考えられます。間欠痛は基本的に蠕動運動によるものだからです。

蠕動できる状態ということは、まだ腸は動けるということですから。それが、持続痛に変化すれば大変です。

ちなみに一般的に間欠痛の間隔は、トライツ靭帯からの距離と比例するとされます。空腸では数分間隔と短くなりますし、虫垂まで行くと数時間間隔と長くなりやすい傾向にあります。

持続痛であれば、

  • 消化管穿孔
  • 循環器疾患
  • 出血や梗塞疾患
  • 結石性疾患    の可能性が高まります。

1-3-5. 嘔気・嘔吐、下痢は?

消化器症状があるのかどうかの確認です。

嘔気・嘔吐は次の3つで分類します。

  • 嘔気のみ
  • 食物残渣の嘔吐(胃液の嘔吐)
  • 水様吐物(緑色、茶色)

嘔気・嘔吐は消化器疾患以外でも、よくみられる症状です。嘔気・嘔吐は怖い病気が隠れている場合が多いです。特に、吐くものがないのに胃液だけ吐きまくっている状態は怖いと考えます。心筋梗塞など循環器疾患や絞扼性イレウス、各種捻転症、尿管結石などです。

茶色の小腸液などであれば腸閉塞の可能性もありますが、嘔吐・腹痛で消化管疾患と決めつけてはいけません。

逆に、大腸憩室炎など消化器症状は乏しい病気も存在する。大腸憩室炎の一番の症状は発熱であり、腹痛は押さえれば痛い、くらいのことが多い。

水様吐物の場合が腸閉塞が疑われます。通常の小腸閉塞では黄茶褐色の腸液様液体(便汁様)を嘔吐する。閉塞部位が十二指腸に近いほど緑色が強くなるのである程度の閉塞部位の推定になります。

 

下痢については、

  • 下痢の有無
  • 性状(水様性・血性)
  • 回数

上記を確認する。

下痢は、何回も水様下痢を起こしている場合にはほぼ腸炎と考えられます。

しかし、まれにただの腸炎でないことがあります。

注意が必要なのは、虫垂炎や腹腔内膿瘍など、腸への外壁からの炎症の波及で下痢を起こす場合です。その場合は、だいたいがテネスムスの状態で、便意が強い(回数が多い)割に、下痢の(水分)量が少ないことが多いです。

水様性の下痢を起こすことは、外科医にとっては少し安心感があります。腸が動いている状態であるからです。腹腔内での強い炎症や、腸管の壊死状態の場合は、腸管が動いてくれません。

そのため、水様性の下痢は患者さんは辛いと思いますが、緊急性が高い状態(手術が必要な状態)のことが少なくなります。もちろん、脱水は死ぬ病気なので、頻回の下痢は注意が必要ではあります。

最後に、消化性潰瘍や虚血性腸炎を疑った患者さんが下痢を訴え場合にはそれが血便でないことは確認しておく必要があります。

1-3-6. 発熱は?

熱の有無はバイタルサインとともに確認しておきましょう。

急性腹症には、発熱があるものと無いものとあります。

発熱があるものでは、消化管穿孔が急性腹症で一番怖い病気です。感染を示唆するものですが、腹膜刺激症状がでるような腹膜炎疾患が無いかチェックが必要です。重症感染症の場合は、高熱だけでなく低体温となることもあります。頭の片隅に覚えておく必要があります。

発熱が無い場合は、腸閉塞(絞扼)や上部消化管穿孔の初期などが注意が必要な疾患です。もちろん、心筋梗塞や腹部大動脈瘤破裂、卵巣捻転などの婦人科疾患などの消化器疾患以外の疾患も鑑別に挙がります。

感染でも急性虫垂炎や急性胆嚢炎では発熱が微熱程度の場合がありますので、逆に注意が必要です。微熱もしくは平熱でも急性虫垂炎や急性胆嚢炎などの感染症であることがあります。穿孔して初めて高熱になることが多いです。

まとめ

以上の6つの病歴をしっかりと確認できているかで急性腹症の診断ができるかの分かれ目です。急性腹症は診断のみならず、緊急性の判断が重要となります。緊急手術が必要なのか、入院が必要なのか、外来での経過観察でよいのか、難しい判断を早急にしなければいけません。

病歴聴取で、ある程度のめどをつけて診察を行い、必要に応じてさらに詳しく病歴聴取をおこなってゆく。それが重要となります。

 

(おまけ)

まれですが、急性腹症の重要な病歴聴取が他にもあります。特に、食歴、旅行歴と月経歴です。

食歴では、生ものの聴取が重要です。また、サバやイカなんかはアニサキスを連想させる食歴ですね。

旅行歴では、経験のないような感染性腸炎などの可能性も出てきます。

月経歴では、異所性子宮内膜症などの疾患なんかは月経周期と関係しています。

これらは緊急性は低いですので、落ち着いて聞ける状況であれば聞いて診断に結び付けましょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました