虫垂炎の診断【経過が重要!常に虫垂炎を念頭におく】

外科

<はじめに>

虫垂炎、いわゆる盲腸について今回記しておきたいと思います。

今回はこんな方向けの記事です。どちらかというと医療者(特に若手医師)向けです。

  • 虫垂炎ってよくわからない
  • 虫垂炎を適切に診断できるようになりたい
  • 虫垂炎を出来るだけ見逃したくない
  • 右下腹部痛と聞くとCTを撮影してしまう
  • 虫垂炎の診察がわからない
  • 虫垂炎はどのタイミングで外科医に相談したら良いかわからない
  • 虫垂炎の手術適応について知りたい

私は、外科医を10年以上行っており、普段から虫垂炎をよく診察する立場です。虫垂炎をあまり診たこと無い方にとっては、診断に苦慮される病気だと思います。

虫垂炎は、すごく有名な病気です。手術を要する病気としても一般の方からも認知されています。しかし、診断が難しい病気としても有名です。実際、見逃される病気ですし、注意していても見逃されることがあります。

有名なだけに虫垂炎を見逃すと、やぶ医者扱いされます。汗

なぜ、難しいのか。それは虫垂炎の患者さんは、いろいろな症状を訴えるからです。有名な症状は、右下腹部痛ですが、すべての患者が右下腹部痛を訴えてくれるわけではありません。

さらに、虫垂炎で右下腹部痛を訴えるようになるのは、虫垂炎の最後の方の症状です。

虫垂炎の初期は、食欲不振、嘔吐、微熱、下痢などがあったりなかったり、患者さんによって多種多様です。そのため、初期で診断することは難しい病気です。最近はCT画像が鮮明になったため、CTでの診断率は高くなりましたが、そもそも風邪の症状の方にお腹のCTは普通撮影しませんし、お腹のCT読影は慣れてなければ難しいものです。

では、どのように虫垂炎を診断していくのか?虫垂炎を疑えるようになるのか?

結論から言いますと、虫垂炎の経過を知り、少しでも虫垂炎が疑わしければ腹部の触診を行い右下腹部の圧痛がないか丁寧に診察することです。これだけで、かなりの見逃しが無くなると思います。

では、詳しく説明していきたいと思います。普段、研修医に伝えていることを詳細に説明していきたいと思います。

虫垂炎の診断【経過が重要!常に虫垂炎を念頭におく】

虫垂炎の診断は上記で述べたように難しいです。

それはなぜか?

虫垂炎は、程度(軽症から重症まで)によって様々な症状を引き起こすためです。

本当に軽症のものは治療も要らない、自然に治る虫垂炎もあれば、重症虫垂炎は、死ぬ可能性もある病気になります。怖い病気でもあります。(そのため、手術も必要となります。)

では、なぜ軽症から重症までのいろいろな虫垂炎の患者さんがいるのでしょうか。

それは、虫垂炎の発症原因を知っておかなければいけません。

 

虫垂を含めた大腸の解剖図です。簡単ですが。

虫垂炎は、上の図のように大腸の中の盲腸という部分につながった虫垂と呼ばれる部屋で起こります。この部屋は一つの入口しかありません。その入口が虫垂口と言われます。

この虫垂口を大便が塞いでしまうことで、虫垂という部屋で細菌が暴れるのが虫垂炎です。

この虫垂の入口を便が塞いでから、徐々に徐々に虫垂炎は悪化していくため、それぞれの時期で症状が異なります。そのため、この患者はどの状態なのかを推測できると虫垂炎の診断が簡単になります。

この虫垂の役割というのは、詳細にはわかっていませんが、最近では免疫に関与しているのではないかなどとも言われています。ただ、実際には取ってしまったために、癌になりやすかったり腸炎になりやすかったりというデータはありませんし、診療している印象としても関係はないように思います。虫垂炎は、重症化すると命にも関わりますので、必要に応じて手術での切除を行います。

 

では、虫垂炎の診断で一番重要なところを順番に説明します。

虫垂炎の経過と症状の推移】

  1. (発症早期) 虫垂口の閉塞、虫垂内圧上昇・・・食欲不振、心窩部痛、嘔気・嘔吐
  2. (発症後12時間程度) 虫垂 局所における炎症・・・右下腹部痛、微熱、倦怠感
  3. (発症後12時間-2日) 虫垂 周囲への炎症の波及・・・持続的な右下腹部痛、下痢など波及した部位の症状
  4. (発症から1日-3日) 虫垂 穿孔、腹膜炎・・・高熱、腹部全体の強い痛み、腰痛など

 

上記が診断の全てと言っても過言ではありません。これさえ押さえておけば、虫垂炎の診断は怖くありません。

虫垂炎症例は数多く見てきましたが、ほぼこの経過を辿ります。虫垂炎の患者に病歴を聞くと、ほぼ同じ話になります。(嘘のようですが、本当です。虫垂炎患者の話をよく聞いてみて、上の経過表と見比べてみてください。)

虫垂炎で本当によく聞く病歴が以下のものです。

「昨日あたりから、みぞおちの辺りが痛くて気持ちが悪かったんです。昨日の晩には一回食べたものを吐きました。少ししんどくて、あったかくして早めに寝たんです。けど、朝仕事に行こうとすると、歩くとお腹の右下が痛くて痛くて。熱は37.2℃だったんですが、仕事を休んで病院に来ました。そういえば、一昨日から食欲がなかったです。」

上記は、一昨日に虫垂口が閉塞し食欲不振となり、昨日は虫垂内圧が上昇して炎症が起きはじめ心窩部痛や倦怠感を発症、本日には周囲にまで炎症が波及して右下腹部痛が存在しているんだな、と考えられます。

症状から、重症度はどれくらいのものか、まで想像することが出来ます。これが出来れば虫垂炎の診断は難しくないはずです。

この中でも特に重要なのが、食欲不振です。この症状は、ほぼ100%出ます。

患者が「食欲はあるんですよ。」と言うと、(あれ、虫垂炎じゃなさそう。)と私は思います。

逆に、「そんなにしんどくないですが、微熱があって、少し下痢もしていて食欲もないんです。お腹の風邪ですかね。」と言われると、(虫垂炎かもしれないな、お腹の診察もしておこう。)と考えます。

ちなみに、「38℃の高熱です。右下腹部も押すと痛いですが、そこまで痛くないです。」と言われると(憩室炎かな?)と思います。右下腹部の結腸(盲腸から上行結腸)には憩室が存在することが多く、憩室炎は虫垂炎の鑑別疾患に挙がります。憩室炎の特徴は<腹痛の割には高熱が出る>です。また、後日憩室炎についても説明します。

他の鑑別疾患としては回盲部炎です。これは経過が似ていますが、どちらかというと風邪のような症状や生もの摂取の病歴が重要となります。最終的にはCTで判断することも多い疾患で鑑別としては難しい疾患となります。

虫垂炎の鑑別疾患を一応記しておきます。

  • 憩室炎
  • 回盲部炎
  • ウイルス性疾患(風邪や腸炎など)
  • 婦人科疾患(子宮付属器炎、子宮外妊娠、卵巣捻転など)  など

虫垂炎の診断スコアについて【経過を知ることが重要とわかる】

虫垂の診断は難しいため、外科医以外の医師でも診断がつけやすいようにスコアが準備されています。有名なものが、Alvarado scoreですね。

Alvarado score MANTRELS in acute appendicitis
In 2016 Alvarado refined the criteria of the MANTRELS mnemonic [World J Emerg Surg. 2016; 26: 11-16]
日本語訳

このスコアは、

  • 7点以上で急性虫垂炎を強く疑う
  • 5-6点で急性虫垂炎を否定できない
  • 4点以下で急性虫垂炎は否定的である。

となっています。しかし、スコアをみてもらえれば分かりますが、項目は虫垂炎の経過に出てくる症状を並べただけとなっています。進行した重症度の高い虫垂炎は診断できますが、発症初期の虫垂炎はどうしても見逃してしまいます。

スコアを用いることは客観性に富む良いことだと思いますが、すべてをスコア化することは難しいものです。できれば、スコアではなく経過から虫垂炎を疑ってほしいと思います。実際、まわりの外科医、消化器内科医でこのスコアを使っている医師を見たことがありません。みな経過から虫垂炎を疑います。 やはり重要なことは虫垂炎の経過をしっかりと知っておくことです。

腹部診察【虫垂炎かどうか見極める】

虫垂炎の病歴をチェック出来たら、次は腹部診察です。

虫垂炎の診断には、腹部の触診も重要です。虫垂炎に特徴的と言われるのが下記のものです。

  • McBurney点の圧痛 下図。虫垂の圧痛を表す。
  • Lanz点の圧痛 下図。虫垂の圧痛表す。
  • 反跳痛(Blumberg徴候) お腹を押した時より離した時の方が痛みが強くなる現象。腹膜刺激徴候とも言われ、腹膜に炎症が波及している状態を表す。
  • Rovsing徴候 仰向けで左下腹部を押すと右下腹部痛が増強する現象。虫垂内圧の増強を表す。
  • Rosenstein徴候 左側臥位(左下で寝ること)で右下腹部の圧痛が増強する現象。
  • 腸腰筋徴候 左側臥位で右足を曲げて伸ばすと右下腹部に痛みが増強する現象。腸腰筋にまで炎症が波及している状態を表す。

それぞれ有名な徴候です。しかし、あまり覚える必要はないかと思います。

なぜなら、虫垂は腹腔内を自由に動くことが出来ます。背側にまわったり、おへそ付近に行ったり、骨盤内にはまりこんだり。虫垂は基本的に自由です。どこにあるかわかりません。それを腹部診察で探していくことこそが重要になります。しっかり触診し、虫垂に痛みがあるのかを確認します。

 

私の腹部診察の方法です。痛みのないところから始め、痛いであろうところは最後に入念に診察していきます。

  • 左下腹部から反時計回りに腹部全体を診察していきます。
  • 左下腹部→左側腹部→心窩部→右上腹部→右下腹部という順番です。
  • 右下腹部は、入念にチェックします。
  • 右下腹部はゆっくり、しっかり押して圧痛が無いかを確認します。虫垂炎であれば初期でも圧痛を認めます。

一番重要なところは言うまでもなく右下腹部の圧痛ですね。

反跳痛もかなり重要です。反跳痛は、腹膜まで虫垂の炎症が波及することで起こります。虫垂炎の炎症が周囲にまで波及している状態です。つまり、虫垂炎はかなり進行している状態です。これ以上炎症が続くと、虫垂が破裂し<汎発性腹膜炎>という命に関わる病気になってしまいます。

反跳痛の存在は、外科医の手術適応の一つと言っても過言ではありません。反跳痛がある、と言われると外科医としては診察せざるを得ません。

反跳痛は、腹膜刺激症状の一つです。反跳痛が有名ですが、筋性防御やかかと落とし試験、歩行時の痛みの増強などの症状が陽性であれば、腹膜刺激症状があると考えます。私がよく聞く質問は、「歩くと右下腹部に響きますか?」です。これは腹膜刺激徴候のある患者には、すごく刺さる質問で、これにYesと答えられると(この患者は手術が必要かも)と思います。

最終的に診断はどうする?【最後の決め手はCT】

では、経過から虫垂炎を疑い、腹部診察をすると右下腹部痛を認める。診断はどうすれば、よいでしょうか。

やはりCTですね。昔はCTでは診断が難しいとされていましたが、今のCTは性能がかなり良いです。CTを撮影することで、最終診断を下します。

診断の厳密な定義はありませんが、

  • 虫垂の太さが10mm以上である(腫大している)
  • 虫垂の壁が2mm以上である
  • 虫垂壁が造影される
  • 虫垂周囲の脂肪織が濃度上昇している  などなど

これらの所見があると虫垂炎と診断できます。

虫垂炎の画像診断については、 ここまでわかる急性腹症のCT 荒木力/著 が、おすすめです。画像の量が多く、診断に重要なことがしっかり書いてあります。お腹のCT画像の読影は難しいですが、重要な点を理解しながら数をこなすと自然と出来るようになります。

ここでも簡単に説明しておきます。まずは回腸末端が盲腸に入る部分を見つけます。見つかればそこからさらに尾側(足側)の盲腸から出ている虫垂を探します。盲腸からは回腸以外に出てくるものはありません。他に出てくるものが虫垂になります。やせた女性などではわかりにくいこともあります。そういう場合は矢状断でのCT画像の構築も役に立ちますので、技師さんにお願いしてみると良いかと思います。

文ではわかりにくいですし、画像をたくさん見ないと、わからないと思います。しかし、ある程度まとまった画像をぱっとでも見ておけば必ずわかるようになります。自分で病院内の虫垂炎画像を集めるのは大変です。私は画像を集めて研修医に教えていましたが、  ここまでわかる急性腹症のCT 荒木力/著  があれば十分かなと思います。

 

治療について【外科医へのコンサルト時に大事な2つ】

治療は、ゴールデンスタンダードは外科治療、つまり手術です。治療は外科医が判断することがほとんどだと思います。では、いつどのタイミングでどのように外科医にコンサルト(相談)すれば良いでしょうか。研修医で救急外来を担当していれば、外科医への連絡など難しいと思いますので記載しておきます。

外科医にコンサルトする場合、押さえておく大事な情報は2つです。

  • 虫垂炎の根拠があるかどうか(経過から虫垂炎が疑わしいなど)
  • 腹膜刺激徴候はあるかどうか(反跳痛があるかどうか)

必要最低限は上記2つだと思います。まず大事なこの2つを伝えれば、外科医は関心を持ち、必要なことを聞いてくれるはずです。

その他には、炎症の程度(白血球やCRPなど)、CT所見(糞石はあるか、free airはあるか、腹水など)、手術を受けることが可能か(合併症や抗血栓薬の内服、手術を受ける意思はあるかどうか、家族はいるかなど)を押さえてもらえれば、質問にも答えられると思います。

 

どういう時にコンサルトすべきかについても、ある程度の基準を記載しておきます。

以下の場合は、外科医にコンサルトで良いと思います。

  • 虫垂炎が経過からかなり疑わしい時
  • 経過から虫垂炎が疑わしく、右下腹部に圧痛を認める時
  • 右下腹部痛が存在し、反跳痛を伴っている時
  • 右下腹部痛が存在し、CTで虫垂の腫大が認められる時

特に、以下の場合は時間外でも、すぐに相談した方が良いと思われます。

  • 虫垂炎が疑わしく、痛みがかなり強い時
  • 虫垂炎が疑わしく、高熱や腹部全体に広がる痛みを認める時
  • 虫垂炎が疑わしく、筋性防御を認める時
  • 虫垂炎が疑わしく、CTで糞石がある時

 

外科医の手術適応は、近年さまざまです。症例によって個々に決定することが多くなりました。

虫垂穿孔を起こすと、汎発性腹膜炎となり命に係わりますので、虫垂炎は早期治療が望ましい病気です。そのため、早期手術が積極的に行われてきました。深夜でも緊急で手術することがほとんどでした。

しかし、最近では抗菌薬の適切な使用を行うことで手術を行わずに虫垂炎を治すことも可能となりました。抗菌薬を使用すれば、虫垂炎が治ることがあります。手術無しには治らない症例も存在しますので、抗菌薬だけで治せるかどうかは症例次第ではあります。

虫垂炎の治療は、手術もしくは抗菌薬というわけではありません。最近では、抗菌薬でいったん炎症を落ち着かせてから予定手術を行うことも一般的に行われています。この場合、2-3か月抗菌薬治療を行い、後日手術するという選択肢もあります。どの治療法もメリット、デメリット(リスク)がありますので、主治医と相談することになると思います。

抗菌薬治療のみで手術を行わない最大のメリットは侵襲が小さくて済むということです。他にもあるかと思いますが、低侵襲治療が一番の最大のメリットです。出来れば手術を行いたくないという患者がほとんどだと思います。

では、手術を行わない抗菌薬治療のデメリットも挙げておきます。こちらも考え、天秤にかけた上で外科医は手術適応を決定しています。

  • 抗菌薬治療の効果が無く、重症化する可能性がある
  • 重症化し、大きな手術になる可能性がある
  • 治療期間が長くなる(絶食期間、入院期間も長くなる)可能性がある
  • 再発のリスクが高い などなど

 

では、逆にすぐに手術した方がよい症例とは、どういう症例でしょうか。

  • 痛みが強い症例
  • 糞石を認める症例
  • 汎発性腹膜炎が疑われる症例
  • 敗血症が疑われる症例  などなど

簡単に言いますと、抗菌薬治療が効かないことが予想される症例と抗菌薬が効くまで待ってられない症例です。これらについてはすぐに緊急手術を行う必要性が高い症例と考えられます。

  

最後に まとめ

  • 虫垂炎の診断には、経過と腹部診察が重要。
  • 腹部は全体をまんべんなく、右下腹部を丁寧にしっかり診察。反跳痛の確認も忘れずに。
  • 外科医には虫垂炎+反跳痛があれば、連絡すべき。治療方針は最近では多岐にわたるため難しい。
  • 虫垂炎の治療は、基本的に手術がゴールデンスタンダードだが、抗菌薬治療という手段もある。

 

抗菌薬の選定については、ここでは詳しく述べませんでしたが、勉強したい方のために記しておきます。

外科疾患の抗菌薬については、目からウロコ!外科医のための感染症のみかた,考えかた [ 岩田健太郎 ]がおすすめです。わかりやすく、外科に携わる医師として、かなり勉強させていただきました。これ1冊で抗菌薬がすごくわかるようになるかと思います。ぜひ活用してみてください。

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