はじめに
消化器外科医10年目で、外科専門医、消化器外科専門医を持っています。
外科手術、消化器外科手術、周術期管理を含めた全身管理が専門です。
質問をいただくことがあるので、他にも聞きたい人がいるかと思い公開していくこととしました。
『カリウムは不整脈を起こすと聞きました。心不全治療中でカリウムを内服してます。大丈夫?』
今回は、カリウムのお薬内服に関してです。カリウムの副作用に不整脈があることが心配だったようです。
質問です。
90歳女性を祖母に持つ60歳女性です。1か月前に祖母が肺炎と心不全と診断され、入院しました。退院時に、血中のカリウムが少ないと言われカリウム内服を処方されました。カリウムを調べると不整脈に影響してくると書いてあります。内服していて大丈夫でしょうか?やめさせた方が良いでしょうか?
つまり、心不全治療中の低カリウム血症に対してカリウム製剤を内服しているが、カリウム製剤は不整脈で心臓に悪いのでは?ということですね。
カリウム製剤の副作用についての質問と考えます。
カリウム製剤は確かに使い方を間違えば怖いものです。血中カリウムが適正な値でなければ低くても高くても問題が生じます。
特に怖いのが、質問にもありましたが、不整脈です。特に致死性の不整脈になることもあるため、注意が必要です。
急速なカリウム製剤点滴は怖いが、内服は安心して使用しやすい
回答です。
カリウム製剤の副作用は、急速なカリウム製剤点滴では怖いが、内服では安心して使用しやすい。定期的なチェックが必要なお薬ですので、処方医、主治医に確認せずに自己中止はやめてください。
解説です。
この女性では、低カリウム血症で血中のカリウムが足りていない状態で、カリウム製剤が処方されています。
少し触れましたが、カリウムは低くても問題があります。低カリウム血症も心臓に良くないです。
カリウムについては詳細に記載すると長くなるので、今は簡単にだけ説明しますが、カリウムは細胞の電気信号を伝える役割を持ちます。心臓は電気信号で動いているので、カリウムが低くても高くても怖い病気です。特にカリウムは高いと心室細動などいわゆる心臓麻痺を引き起こす不整脈の原因となることがありますので、注意が必要です。
心不全治療中とのことで、おそらく利尿薬を内服されていると思います。利尿薬は尿を排泄させ体内の水分を外に出させる薬です。心不全は、体内の水分が多くなり心臓がうっ血してしまっていることが多く、治療には利尿薬がよく使われます。
利尿薬は、尿と一緒にカリウムを排泄させてしまいます。そのため、利尿薬内服している患者さんはカリウムが低下しやすい状況です。
低カリウム血症の治療としては、カリウムが低くなった原因の治療とカリウムの補充になります。今回の女性は、低カリウムの原因は利尿薬とすれば、利尿薬中止も考えることがあります。低カリウム血症が重症ではなく、利尿薬は心不全治療に必要であれば、いったんはカリウムの補充のみで治療します。
カリウムの補充方法は、点滴と内服があります。一般的には、低カリウム血症が重篤であれば入院の上でカリウム製剤の点滴を行いますが、軽症であればカリウム製剤を内服していただきます。
カリウム製剤の点滴ですが、ゆっくりと点滴が必要です。急速なカリウムの点滴は、血中カリウムの急激な上昇を引き起こし、心室細動などの致死的な不整脈の原因となります。カリウム製剤の急速点滴は禁忌であり、急速に点滴できないような仕様になっています。
カリウム製剤の内服ですが、こちらは消化管による吸収という過程を経るのでゆっくり作用します。点滴のような急激な上昇はないので、基本的には点滴のように不整脈の原因となることは少ないです。もちろん、定期的な採血でのチェックを行わないと高カリウム血症となり得ますので注意が必要ですが、処方しやすいお薬になります。
まとめ
心不全患者さんが利尿薬を飲み始めたことで生じた低カリウム血症でカリウム製剤を内服しはじめました。
ご心配のカリウム製剤の副作用による不整脈ですが、内服においては徐々にカリウムが上昇しますので、定期的なチェックを受ける予定であれば問題ないと思います。
特に今回の女性は、低カリウム血症の原因は利尿薬と診断されているのであれば、原因の解除も出来ておらず、カリウム製剤の内服を継続することで高カリウム血症にはなりにくいと考えます。
カリウムは扱いが難しいですが、定期的な診察を受けた上で、内服されることに関しては安心して良いのではないかと考えます。
自己判断で中止せず、主治医、処方医に相談することが必要と考えます。
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